◆◆中小企業の割増賃金率引き上げ◆◆
8年前、労働基準法の改正により「月60時間を越える時間外労働」について割増賃金が引上げられました。
その時の対象は大企業のみで、中小企業については猶予されていたのですが、今回、働き改革関連法案によって、中小企業についても大企業と同様に割増賃金が引上げられることになりました。この改正は2023年4月より適用されます。
法定労働時間(1週間40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)については、25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。
時間外労働が月45時間を越える部分については割増率を「25%を超える率」に引き上げることが努力義務となっています。30%や35%でもかまいませんし、「努力」義務ですから引上げず25%のままでも違法ではありません。
しかし、月60時間を越える部分については、「50%」以上が義務になります。ここが改正点です。努力義務ではなくて義務ですから、必ず50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
~~残業代はいくらになる? 計算の具体例~~
1時間あたりの残業代 ・割増率25%の場合 2,000円×1.25=2,500円 ・割増率50%の場合 2,000円×1.5=3,000円 |
これによって、いったいどれくらいのコストアップになるの
でしょうか。具体的に見てみましょう。
たとえば時間単価2,000円の社員が残業した場合で
計算してみます。
月の時間外労働80時間のケースで残業代がいくらになるか計算してみましょう。
80時間分の残業代 ・割増率25%の場合 2,000円×80H×1.25=20万円 ・改正後 (60時間までは25%) 2,000円×60H×1.25=15万円 (60時間超は50%) 2,000円×20H×1.5=6万円 (合計)15万円+6万円=21万円 |
同じ80時間分の残業に対し、1万円の差額となりました。
注意点は、60時間までと60時間を越えた分を分けて計算しなければならないというところです。
大企業では既に8年前から実施されているため市販の給与計算ソフトも法改正にほぼ対応していますが、設定や月々のチェックなど事務処理が煩雑になります。
~~違反には罰則がある~~
月60時間を越える時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払わなかった場合は、罰則(6ヶ月以上の懲役または30万円以下の罰金)も設定されています。
コストアップを受け入れるか、それとも残業を削減するか、という経営判断になります。もちろん行政の狙いは、残業へのペナルティを強化して長時間労働を削減することです。2023年だからまだまだ先と思わず、早めに対策を講じて起きましょう。
なお、引上げ分の割増賃金(先ほどの例で言うと、差額の1万円の部分)のかわりに、有給休暇(代替休暇)を与えるという方法もありますが、事前に労使協定が必要になります。
社会保険労務士 川﨑美嘉子